大道芸通信 第362号
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日本の大道芸の過去と未来
これまで何度も言い書いているように、古来から伝わる日本の大道芸は、大きくは二つに分類される。①物売り系②芸能系がそうである。夫々(それぞれ)に変異株が加わると、四つになる。乃(すなわ )ち( )③振り売り系④願人坊主系である。わかりやすいよう一表にすると左記の通りである。 物売り系といえば香具師に代表される。まともに読めば「香(や)具(く)師(し)」であり、「薬師」乃ち薬売りのことである。しかし彼らは「やし」と縮めて言うが、藩政時代には、十三種類の生業を認め生業を認められており、何れも薬売りと称していた。実際には薬以外のものであっても、屁理屈を付けて薬と関連付けていた。たとえば食米師。貧しい家の病人の枕元で、米を竹筒に入れ、振って音を聞かせてやれば病気が治るから米売りは薬売りである、という類である。
◍ 享保二十年(一七三五)、香具師が幕府末端組織へ組み込まれるに際し、町奉行大岡越前守へ提出した業種と内容明細を説明書きは次のようなものである。
一、居合抜 曲鞠 独楽回子の三組は愛嬌芸術を以て人を寄せ 薬 歯磨 はんごん丹を売り候故 薬香具と申上奉候
一、覗き見世物軽業の芝居役者身ぶり声色 これは愛嬌人を寄せ 薬歯磨き売る香具と申上奉候
一、鉄もの金物を売る者 鋏 毛抜 金銀打ち針 その外品々外科にて用事をふる金物を商売致し候故 これも香具商人と申上奉候
一、(以下似たような条項が延々続くので略)
大岡越前守ともあろうものが、こんなうんざりするような屁理屈をすんなり受け入れたのも、全国組織である香具師集団を利用してスパイ活動をさせるためである。香具師をスパイ(隠密)として利用したことは、左記の一文にはっきり記してある。
○香具師一件
恐れながら書き付けを以てお答申上奉候
一、十三香具隠密之訳心得方の儀 御尋ね遊ばされ候
十三香具と申す職業は 諸製薬居付き売り広め候分並びに口中一切療治致候入歯師 愛嬌芸術を以て売薬仕候居合抜独楽廻の類(以下略) 右の通り御座候以上
芝田町三丁目 駿河や金右衛門借家 庄兵衛
享保二十卯年十一月
屁理屈であっても、形式さえ整っていればそれでいい。そんな内容である。
斯くして全国に散らばる香具師からの情報を幕府は大いに利用することになる。その結果が維新後に現れる。とりわけ薩長量販を中心とする維新政府から恨みを買い、太政官布告で禁止される羽目に陥るのである。
○明治五年七月八日
太政官布告
従来香具師ト唱ヘ来候名目自今被廃止候事
但銘々商売ノ儀ハ可為勝手事
以来、「商売の儀」を続ける「旧香具師」についての呼称は「テキヤ」となる。由来についてH未詳だが、東京府による規制を逃れるため業界共通語として考えられたようである。とりわけ府の鑑札を受けることになったため、急がれた。
香具師の商売は季節や場所により、適した商品を販売する=適当屋、適宜屋。しかし適当屋では役所に出すのに都合が悪い。香具師(やし)に倣って中抜きを考えたようである。つまり手っ取り早く「適屋」とし、後にすごみの出るカタカナに変えたのではあるまいか 最近は寺社の縁日や祭りを商売の場としているが、元々人の集まるところでは何処ででも見世を構えた。道路使用に対する規制等が厳しくなった現在はほぼ壊滅状態とか。
それでも縁日などでの物売り商売は、今でも見ることが出来るが、かつて「オオジメ」と呼ばれた人たちは一足も二足も早く、昭和四十年代(一九六〇~)には姿を消した。
知らない人のために簡単に説明すると、町中や縁日などの一角で、自分を中心に三百六十度ぐるりと人を集める人を「オオジメ」と読んだ。漢字は「大締」「大〆」等を宛てるが、色々あって決まりはない。共通していることは、何をする人かわからん喋り方をして、人の狂気を引く。
例えば山伏姿の「薬草売り」の出だしは次のよう。
《このような異様な姿をしていると、皆さん方の中には、「あの男気が狂ったんじゃあなかろうか」とお疑いの方もございましょうが、私は山伏です。嶮岨を踏み難所を越え、深山幽谷に住処とすること二十三年と八ヶ月。大和国は大峰山を初め、諸国の霊山霊場を訪ね、四百四病に関する薬草を具に研究して参りました。久しぶりで東京へ帰ってみたら、余りの変わりように驚いてしまいました。街を歩いている者は皆洋服、しかも女は短いスカートに尻を顕わにして、山登りするわけじゃあるまいにリュックサックなんぞ背中に背負い、あまつさえ女の命と言われた緑の黒髪を、わざわざ鏝(こて)やら火(ひ)熨(の)斗(し)屋良を使って滅茶苦茶に誂えて居る。それをまた髪を茶色に染めた男どもが追い掛け、一目構わず乳繰り合うという。実になんともはや正視に耐えない。この原因は何処にある。
これからその話をする前に、儂が山へ菰って会得した簡単な病の直し方を教えて進ぜるので、恐れ入ります。もう少し前の放屁お集まり下さい。
(この部分を人〆(じんしめ)といい、何より大事)
こう申しますと皆さん方の中には、あの男調子のええことを言うておるが、後で高い本か薬でも売り付けるんじゃあなかろうかと、お疑いの方もございましょうが、先ほど申したとおり私は山伏。人を騙したり銭儲けのために生きている男じゃあございません。ここにありますこの本も、後ほど皆様方へ無料でお配りするものでございますから、どうぞ安心して、最後までゆっくりお聞き下さい。(以下略)『日本大道芸事典』へ全文掲載しているのでそちらを》
何れにしろ、現在は薬も本も売らず(買い手がない)、イベントとして細々続けているが、コロナ騒動で殆ど中止になった。随って、一般の人たちが目にする機会もなくなった。
②芸能系大道芸も元気がない。かっぽれなどは祭り等で見ることもあるが、太神楽は寄せで見るぐらいしかなくなった。表でやっても、ジャグリングほどのインパクトがないため、偶々見掛けても人影はまばらである。
習得するには大変な苦労があるが、結果が伴わなければやる人は減る。どんな
商売も発生から隆盛期を経て衰退期に至る流れは中々止められない。それが歴史の流れであり、それを受けてまた新しい文化が生まれる切っ掛けにもなるのである。
③振り売り系
あさり売りや納豆売り、かりんと売りはイベントの定番だが、実際の商売としてやるのは難しいだろう。
現在残っているのは焼き芋売りだが、電化製品の引き取りも能く来る。「ご不要になりました電化製品はございませんか。壊れていても構いません。無料でお引き取りします」と。聞いた話だが、成る程電化製品は只だが、運び賃を滅茶苦茶取られるということ。だからといって、降ろしてくれと言うと、更に下ろし賃を要求されるので、泣く泣く払ったという話を耳にしたことがある。
その話を聞いて以来、電化製品の処分は、買い換えの蔡電気屋に運んでもらうか、役所に手数料を払って以てもらうようにしている。
④願人婀(願人坊主)
これが一番先に消えてい待ったようである。文献を見ながら、「すたすた坊主」や「そそそ」を復活させた。
大道芸の会会員募集
ワシントン条約は言わずもがな芸能界からさえ無視され続けられている絶滅危惧種「日本の大道芸」を一緒に伝承しませんか 稽古日は左記の通りです
●第三六二回目 二月九日(水(すい))
●第三六三回目
三月九日(水(すい)) 時間・午後六時ー七時半
場所・烏山区民センター 大広間(二階)
また、歴史や時代背景を学び、或いは技術を向上させたい人(オンリー・ワンやナンバー・ワンを目指す人)のために、一名から学習会や特別講習も行っています。
●日時 ・場所(随時)
随時HP掲示板(ほーむぺーじけいじばん)等で通知
編集雑記
漸くコロナが治まりかけたと思ったら、今度は変異株の出番。オミクロンなどは倍々ゲームのように増えて、来週には一万人を超えるだろうという。再びか三度かマンボウが間もなく出る。ただ、これまでと異なり今回は飲食禁止にはならんようじゃ。そりゃそうじゃろう。パチンコ屋から始まり飲み屋で終えた前回、そこから蔓延はなかった。
日本の大道芸の過去と未来
これまで何度も言い書いているように、古来から伝わる日本の大道芸は、大きくは二つに分類される。①物売り系②芸能系がそうである。夫々(それぞれ)に変異株が加わると、四つになる。乃(すなわ )ち( )③振り売り系④願人坊主系である。わかりやすいよう一表にすると左記の通りである。 物売り系といえば香具師に代表される。まともに読めば「香(や)具(く)師(し)」であり、「薬師」乃ち薬売りのことである。しかし彼らは「やし」と縮めて言うが、藩政時代には、十三種類の生業を認め生業を認められており、何れも薬売りと称していた。実際には薬以外のものであっても、屁理屈を付けて薬と関連付けていた。たとえば食米師。貧しい家の病人の枕元で、米を竹筒に入れ、振って音を聞かせてやれば病気が治るから米売りは薬売りである、という類である。
◍ 享保二十年(一七三五)、香具師が幕府末端組織へ組み込まれるに際し、町奉行大岡越前守へ提出した業種と内容明細を説明書きは次のようなものである。
一、居合抜 曲鞠 独楽回子の三組は愛嬌芸術を以て人を寄せ 薬 歯磨 はんごん丹を売り候故 薬香具と申上奉候
一、覗き見世物軽業の芝居役者身ぶり声色 これは愛嬌人を寄せ 薬歯磨き売る香具と申上奉候
一、鉄もの金物を売る者 鋏 毛抜 金銀打ち針 その外品々外科にて用事をふる金物を商売致し候故 これも香具商人と申上奉候
一、(以下似たような条項が延々続くので略)
大岡越前守ともあろうものが、こんなうんざりするような屁理屈をすんなり受け入れたのも、全国組織である香具師集団を利用してスパイ活動をさせるためである。香具師をスパイ(隠密)として利用したことは、左記の一文にはっきり記してある。
○香具師一件
恐れながら書き付けを以てお答申上奉候
一、十三香具隠密之訳心得方の儀 御尋ね遊ばされ候
十三香具と申す職業は 諸製薬居付き売り広め候分並びに口中一切療治致候入歯師 愛嬌芸術を以て売薬仕候居合抜独楽廻の類(以下略) 右の通り御座候以上
芝田町三丁目 駿河や金右衛門借家 庄兵衛
享保二十卯年十一月
屁理屈であっても、形式さえ整っていればそれでいい。そんな内容である。
斯くして全国に散らばる香具師からの情報を幕府は大いに利用することになる。その結果が維新後に現れる。とりわけ薩長量販を中心とする維新政府から恨みを買い、太政官布告で禁止される羽目に陥るのである。
○明治五年七月八日
太政官布告
従来香具師ト唱ヘ来候名目自今被廃止候事
但銘々商売ノ儀ハ可為勝手事
以来、「商売の儀」を続ける「旧香具師」についての呼称は「テキヤ」となる。由来についてH未詳だが、東京府による規制を逃れるため業界共通語として考えられたようである。とりわけ府の鑑札を受けることになったため、急がれた。
香具師の商売は季節や場所により、適した商品を販売する=適当屋、適宜屋。しかし適当屋では役所に出すのに都合が悪い。香具師(やし)に倣って中抜きを考えたようである。つまり手っ取り早く「適屋」とし、後にすごみの出るカタカナに変えたのではあるまいか 最近は寺社の縁日や祭りを商売の場としているが、元々人の集まるところでは何処ででも見世を構えた。道路使用に対する規制等が厳しくなった現在はほぼ壊滅状態とか。
それでも縁日などでの物売り商売は、今でも見ることが出来るが、かつて「オオジメ」と呼ばれた人たちは一足も二足も早く、昭和四十年代(一九六〇~)には姿を消した。
知らない人のために簡単に説明すると、町中や縁日などの一角で、自分を中心に三百六十度ぐるりと人を集める人を「オオジメ」と読んだ。漢字は「大締」「大〆」等を宛てるが、色々あって決まりはない。共通していることは、何をする人かわからん喋り方をして、人の狂気を引く。
例えば山伏姿の「薬草売り」の出だしは次のよう。
《このような異様な姿をしていると、皆さん方の中には、「あの男気が狂ったんじゃあなかろうか」とお疑いの方もございましょうが、私は山伏です。嶮岨を踏み難所を越え、深山幽谷に住処とすること二十三年と八ヶ月。大和国は大峰山を初め、諸国の霊山霊場を訪ね、四百四病に関する薬草を具に研究して参りました。久しぶりで東京へ帰ってみたら、余りの変わりように驚いてしまいました。街を歩いている者は皆洋服、しかも女は短いスカートに尻を顕わにして、山登りするわけじゃあるまいにリュックサックなんぞ背中に背負い、あまつさえ女の命と言われた緑の黒髪を、わざわざ鏝(こて)やら火(ひ)熨(の)斗(し)屋良を使って滅茶苦茶に誂えて居る。それをまた髪を茶色に染めた男どもが追い掛け、一目構わず乳繰り合うという。実になんともはや正視に耐えない。この原因は何処にある。
これからその話をする前に、儂が山へ菰って会得した簡単な病の直し方を教えて進ぜるので、恐れ入ります。もう少し前の放屁お集まり下さい。
(この部分を人〆(じんしめ)といい、何より大事)
こう申しますと皆さん方の中には、あの男調子のええことを言うておるが、後で高い本か薬でも売り付けるんじゃあなかろうかと、お疑いの方もございましょうが、先ほど申したとおり私は山伏。人を騙したり銭儲けのために生きている男じゃあございません。ここにありますこの本も、後ほど皆様方へ無料でお配りするものでございますから、どうぞ安心して、最後までゆっくりお聞き下さい。(以下略)『日本大道芸事典』へ全文掲載しているのでそちらを》
何れにしろ、現在は薬も本も売らず(買い手がない)、イベントとして細々続けているが、コロナ騒動で殆ど中止になった。随って、一般の人たちが目にする機会もなくなった。
②芸能系大道芸も元気がない。かっぽれなどは祭り等で見ることもあるが、太神楽は寄せで見るぐらいしかなくなった。表でやっても、ジャグリングほどのインパクトがないため、偶々見掛けても人影はまばらである。
習得するには大変な苦労があるが、結果が伴わなければやる人は減る。どんな
商売も発生から隆盛期を経て衰退期に至る流れは中々止められない。それが歴史の流れであり、それを受けてまた新しい文化が生まれる切っ掛けにもなるのである。
③振り売り系
あさり売りや納豆売り、かりんと売りはイベントの定番だが、実際の商売としてやるのは難しいだろう。
現在残っているのは焼き芋売りだが、電化製品の引き取りも能く来る。「ご不要になりました電化製品はございませんか。壊れていても構いません。無料でお引き取りします」と。聞いた話だが、成る程電化製品は只だが、運び賃を滅茶苦茶取られるということ。だからといって、降ろしてくれと言うと、更に下ろし賃を要求されるので、泣く泣く払ったという話を耳にしたことがある。
その話を聞いて以来、電化製品の処分は、買い換えの蔡電気屋に運んでもらうか、役所に手数料を払って以てもらうようにしている。
④願人婀(願人坊主)
これが一番先に消えてい待ったようである。文献を見ながら、「すたすた坊主」や「そそそ」を復活させた。
大道芸の会会員募集
ワシントン条約は言わずもがな芸能界からさえ無視され続けられている絶滅危惧種「日本の大道芸」を一緒に伝承しませんか 稽古日は左記の通りです
●第三六二回目 二月九日(水(すい))
●第三六三回目
三月九日(水(すい)) 時間・午後六時ー七時半
場所・烏山区民センター 大広間(二階)
また、歴史や時代背景を学び、或いは技術を向上させたい人(オンリー・ワンやナンバー・ワンを目指す人)のために、一名から学習会や特別講習も行っています。
●日時 ・場所(随時)
随時HP掲示板(ほーむぺーじけいじばん)等で通知
編集雑記
漸くコロナが治まりかけたと思ったら、今度は変異株の出番。オミクロンなどは倍々ゲームのように増えて、来週には一万人を超えるだろうという。再びか三度かマンボウが間もなく出る。ただ、これまでと異なり今回は飲食禁止にはならんようじゃ。そりゃそうじゃろう。パチンコ屋から始まり飲み屋で終えた前回、そこから蔓延はなかった。