大道芸通信 第324号

画像画像『擲銭青楼占』

『擲銭青楼占(てきせんせいろうせん)』は筮(ぜい)竹(ちく)代わりに銭で占いするとある。『洒落本大成 第五巻』が載せる解説によると、洒落本大成以前に、『洒落本大系 巻二』が翻刻しているという。
 また本書は『開学小筌』(宝暦年間刊)、『遊郭擲銭考』(明和二年)の改題改刻板であり、前二書の上方板を江戸板として、序や跋、本文文章を変えていると。刊年についても「卯二月」とあるばかりで年がない。明和八年か天明三年だろうと推察した後、明和八年であろうと結論している。今ならパクリ本だが、当時は著作権がないので救われている。

  擲銭青楼占序
謹んで按じますに 先生は寝惚けて臍を探れば 年期幼奴が長唄をうなる カボチャが唐茄子となれば 茶釜が飛んで薬(や)罐(かん)と化け 盲相撲を仕組めば 笠森お仙が入りを取る
達磨男を出せば 釈迦ヶ岳来る 夫(それ)世上は変なものにて 大の極まりなし 是秤は如何な穴識りの静寂観房天竺浪人でも一寸先は闇雲なり 此故に上古粋飽達 発明して卜筮の道起こる 久しいものさ 今予(われ)少し洒落かけ 擲銭の卜にならひ 青楼にてもてもしやうかと書を著し 娼婦牽頭等の麻布で気の知れぬを察し 安達ヶ原をはづす工面 さんまの乾肉(ひもの)の焼けすぎぬ意得を述ぶ 其判断のいざこざは 新田の霊験著しが如し 是で野暮ならしよことがない 蕩子(どらたち)披閲し給はば こいつはゑゑと請け取れん 庶幾(こいねがわくは)借本屋 衆気はないか じいわりと頼みますと いけない口で序す
   讃岐の金比羅山人

 「擲銭青楼占序」
 擲銭とは硬貨のこと。青楼は言うまでもなく吉原遊郭である。したがって擲銭占は筮竹代わりに硬貨の裏表で占うこと。それさえわかれば後は読んで字の如し。粋な言葉遊びも交えれば 大通(だいつう)を気取ることも出来ようというもの。頑張って成果を出して貰いたい

 つづいて「凡例爻」
擲銭は漢の京房(人名) 銭を用ひて筮(めど)に代へて 吉凶を占いしより始まる 其の方は周元通宝の銭三隻(せき)を以て擲(なげう)つて封爻(かこう)を成し卜すと云々

硬貨占いは漢の京房が始めた。其の方法は銭三個を投げて八卦(封爻)に当てはめて占うものである。

最も占法の捷(しよう)径(けい)なり 後人此の法によって占術の法書を著すこともまた多し 其の書にあらはれたる始めは儀(ぎ)礼(らい)の書に見ゆ 且つ其の事の始末は困学紀聞に粗(ほぼ)見へたり
今又京房に倣ひ一法を建て 花街柳陌に遊ぶ人のこれをもって娼女(じよろう)頑童(やろう)歌妓(おどりこ)幇間(たいこ)の状貌(みめかたち)性情(こころだて)行跡(みもち)を未前に識るをもって興とす 其の法はただ銭六銅をもちて 先ず三銅を擲ち上卦とし 残る三銅をまた擲ち下卦とす此の三銭の伏仰にて八卦なるなり 凡そ銭の文字ある方は面なり○(如此図す) なき方は背(うら)なり●(如此図す) 是にて上下の卦を得て次に記す六十四卦の目録に合はせ考へ 何の卦と知り 扨(さて) 奥にある其の卦の所にて判断するなり 譬へば始めの三銭みな仰ぐときは○○○ 是を乾とし上卦とす 又三銭皆伏すは●●● 是を坤とし下卦とす 此の上下の卦を以て目録を見れば天地否の卦なり 二丁の裏に此の卦の判断あり その文を考へて知るべし

 硬貨占いの方法は、字の書いてある側を表、書いてない側を裏とする。最も現在のものは両面に文字が書いてあるから、そのままでは当てはまらない。現在の硬貨は年号が書いてある側を裏と定めてある。十円玉なら鳳凰堂が描いてある方が表で、大きく「10」と書いてある方が裏である。百円玉も同じ。目立つ方が裏、地味な方が表である。
 扨 占いの仕方。
最初に硬貨を六枚用意し、内三枚取って放る。これが上卦である。続いて残りの三枚、下卦を放る。こうして出た卦を左頁に写した六十四卦表の中から探し当てはめ考える。

  乾為天(けんいてん)  ○○○○○○

客人 この卦に当たる人は位はあるが 大変騒がしく所帯持ちは良い 但し……
若衆 この卦に当たる若衆は気持ちはわさわさとするがイケメンである。座敷は……
女郎 この卦に当たった女郎は色が白くて丸顔で若い。自我が強く座敷へ出るのは遅い
踊子 この卦に当たる踊り子は丸顔で我が強くキメ細かい声はいいが三味線はせわしない 着物は鼠か白……
太鞁 この卦に当たるタイコは無性に喧しく 大酒飲みで豊後節を語らせるといい

  天(てん)風(ぷう)姤(こう) ○○○○○●
客  この卦に当たる人は侍か坊主で背は高く遣い手。踊り子は紙(後で金と交換)を沢山持って行け、女郎は身請けを頼め、タイコは祝儀があるだろうから早く行け行け
若  この卦に当たる若衆は顔長し。青い着物を着て何芸も上手だから……
女  この卦に当たる女郎は、色白く鼻筋高く素晴らしい
踊  この卦に当たる踊り子は 少しでも早く来る。背も高く丸顔で身持ちも堅い
太  この卦に当たる太鼓は背が高く物真似や芝居が上手い

◎以下客人だけに絞る

  天山□(てんさんとん)(しんにゅうに豚)  ○○○○●●

この卦に当たる客は侍たるべし町人なら紺屋なるべし。黄金持で見栄っ張りだから小道具類は見事である

  天(てん)地(ち)否(ひ)  ○○○●●●
この卦に当たる客は出家か四方髪(総髪)、前髪の類。良く金を使うが我が儘

  天沢履(てんたくり)  ○○○●○○
客は侍か町人なら鍛冶屋か金物屋。甚だ厚かましい

  天(てん)雷(らい)無(む)妄(もう) ○○○●●○
客は丸顔で色白いが短気。金持ちだが結構細かい

天水訟(てんすいしよう)  ○○○●○●
客は出家が良い。俗人なら大金持ちで人当たりも良いが、理屈っぽいが金離れがいい…

天火同人(てんかどうじん) ○○○○●○
客は高貴名人が多い。町人なら大金持ちで馴染となるが理屈っぽい所がある

  沢火革(たくかかく)  ●○○○●○
客は刃物商売がいい。絵描きか出家なら金はあっても吝

  沢風大過(たくふうたいか) ●○○○○●
位の高い武士だが勝ち気なのが好み馴染んでも邪魔が入る

  沢雷随(たくらいずい)  ●○○●●○
気高く賢い。旅好き出歩き好き。顔色は碧い

  沢天夬(たくてんかい)  ●○○○○●
金持ちだが吝、馴染めばしつこく嫉妬深い

  兌為沢(だいたく)  ●○○●○○
色白く大金持ちで気前も良い馴染むと身請けも夢じゃない

  沢水困(たくすいこん)  ●○○●○●
色黒く醜男。心配事があるから用心した方がいい

  沢地萃(たくちか)  ●○○●●●
問屋や口入屋が多い。侍なら手習い師匠。甚だ吝

  沢(たく)山(さん)咸(かえ)  ●○○○●●
飛脚か他国の人。平顔で背も低いが……

  火地晋(かちしん)  ○●○●●●
質屋酒屋の類。出家かデブなら腹黒い。顔赤く背低い

  火天大有(かてんだいゆう)  ○●○○○○
見栄えが良く話題も豊富。気は優しく大騒ぎが嫌い

  火沢暌(かたくけい) ○●○●○○
暌小金持ちで気取りやだが理屈好きだが嫉妬心も……暌

  火雷噬嗑(からいすいこう ○●○●●○○
出家なら貧相、町人なら道具屋呉服屋なら…(以下略 何れの日にか載せん)

 大道芸の会会員募集 
「南京玉すだれ」や「がまの膏売り」など、日本庶民の伝統文化「大道芸」を一緒に伝承ませんか。練習日は左記の通りです。
●第三二一回目 二月十三日(水(すい))

●第三二二回目 三月十三日(水(すい))予定
時間・午後七時ー九時
場所・烏山区民センター 大広間(二階)

 また、歴史や時代背景を学び、或いは技術を向上させたい人のために、学習会や特別練習も行っています。
●日時 ・場所(随時)

 随時HP掲示板(ほーむぺーじけいじばん)等で通知

編集雑記
冬休みに、念願だった『備後国風土記』逸文が載せる牛頭天王社(現在素盞鳴神社末社)へ行ってきた。福塩線上戸手駅から直ぐであったが、案内図も何もないので困った。聞こうにも人の姿もまるでない。うろうろした挙げ句漸く辿り着いた。
 牛頭天王を隠す神社が多い中で流石本場。「祗園神発祥の景」なる庭園模型まで備わっていた。 牛頭天王を真ん中にして素盞鳴や奇稲田姫、事代主神等を従えているのも良い。皆もゼヒ!

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